クラシック音楽の危機をティーチング・アーティストが救う?
海外のコンクールで入賞した日本の若手演奏家の活躍は目覚ましいものがあります。 アイドル顔負けの人気を博している演奏家が次々と生まれています。そして、日本のオーケストラのレベルも、世界のトップオーケストラに肩を並べるほどになっていて、日本のクラシック音楽業界は活況を呈しているように感じている人も少なくないかもしれないです。
しかし、一方で、コンクールで入賞もしていない演奏家のコンサートは集客ができず、音楽大学に入る学生は減少の一途を辿り、音楽大学はコンクールで賞を取るということが第一義となりつつあります。また、日本を代表するオーケストラでさえ、純粋なクラシック音楽のプログラムだけでは空席が目立つようになってきていて、アニメ音楽のオーケストラ・コンサートも多くなってきました。
あるヴァイオリニストがウーバーイーツで頼んだら、知り合いのヴァイオリニストが運んできた、という話しも実際にあるぐらいに、若手の演奏家の生活は厳しい状況に置かれています。
少子高齢化が急激に進展し、そもそもクラシック音楽を愉しむ人のパイ自体が縮小しているなかで、日本人の95%は相変わらずクラシック音楽を聴くことはないのです。
演奏家や音楽関係者はそれぞれ裾野を広げる努力をしているのですが、こうした状況は個別の努力で解決できる問題ではもはやなくなってきているのではないでしょうか?
クラシック音楽は敷居が高く、聴いてみたくても何を聴けばいいのか、どのように楽しめばいいのかわからないと言われます。聴いたとしても癒されたりいい時間を過ごしたという満足感は持てるものの、そこから他の曲も聴いてみようという興味は持てず、聴いてもその楽しみ方が解らない(言葉で説明されていない)ため、特に知的好奇心をくすぐられることもなく、結果べの演奏会に足を運ぶこともない。だから音楽ファンの裾野が広がらないのだと思います。
ストリートピアノに人が癒されるとはあるでしょう、アニメソングを一流のオーケストラをバックにして聴くのも楽しいでしょう。しかし、それではクラシック音楽ファンの裾野が広がることには繋がらないのです。
それは、音楽の本当の楽しさが理解できていないから好奇心も沸かず、従って”ハマル”ことはないからです。
クラシック音楽のコンサートでは、演奏者は演奏を終え、顧客は拍手をして帰る、何のコミュニケーションもなく、演奏者に顧客の真の反応や言葉が届くことも限界的です。
演奏家は自分が何故このプログラムを組み立てたのか、何を表現し何を伝えたいのか、そして何を理解してもらいたいのかを解ってもらうことなく、自分の音楽を届けることができたと満足しているのではないでしょうか?
そもそも、当日配布されるプログラムにも、プロフィール欄には〇〇賞受賞、〇〇先生に師事、ということばが長々と並べられ、それ以外の演奏家の顔を知ることは殆どできません。
そして、一般のビジネスで顧客のニーズを探り、喚起するためにあらゆる調査や努力をしているのですが、クラシック音楽業界に「マーケティング」という言葉はないようです。 何故なら、ごく一部の既存客(オケで言えば定期会員)を相手にして彼らを満足させることが第一義だからです。
一方、アマチュアのオーケストラは乱立していて、演奏を楽しむ人はとても多く掛け持ちで複数のオケで弾いていたりしてとても熱心ですが、彼らが他のアマオケのコンサートを聴きに行くことは知り合いの出演者に誘われる以外はありません。基本的には発表会の場であり、自分たちの顧客を増やそうという努力はあまりされていないように思えます。
クラシック音楽を体験し興味をもって継続的に楽しむ人は増えることなく、今後ファンが減っていく道を辿ることになるという危機感を音楽関係者が持ち、個人レベルではなく組織レベルで対策を真剣に打つべきではないでしょうか?
音楽家は顧客が理解できる、してもらえると期待としてるのでしょうが、顧客の大半はクラシック音楽ファンであっても演奏家が本当に表現したいこと、伝えたいことを理解できていないのではないでしょうか?
ましてや、クラシック音楽を聴かない人がクラシック音楽に触れる機会があったとしても、演奏家から寄り添った説明がなければ、ただの心地いい音楽でしかなく、何度も聴きたいとは思わないのではないでしょうか?
これからクラシック音楽業界は、クラシック音楽を体験し好奇心を膨らませる人々の裾野を広げるために、95%の聴かない人々に対して音楽の楽しさや音楽から生きるために必要なことを学べることを理解してもらうために必要なあらゆる努力を行う必要があります。
その役割を果たすのは、演奏家と顧客の間の川を渡る為の橋となる「ティーチング・アーティスト(TA)」ではないかと思います。米国ではかなりの数のTAが活躍していますが、日本ではまだ数も少なく、TAに対する理解も進んでいないようです。
TAが、クラシック音楽の体験に導き、その魅力を音楽だけではなく、言葉で知識のない人にわかりやすく説明し、少しでも興味を持てるように導く役割が不可欠なのです。