オーケストラは、様々な楽器が集まって一つの曲・プログラムの成功に向けて全神経を集中し演奏する。
その中で中核となる指揮者とコンサートマスターの役割りについて理解している人は極めて少ないのではないかと思う。
例えば、指揮者の仕事は、演奏会当日の前にその大半が終わっていることをどれだけの人が知っているだろうか?
指揮者は楽譜を徹底して読み込み、作曲者と対話を繰り返してその意図を理解しつつ、自分独自の解釈を加えて音楽の表現の構成・ストーリーを考えてそれをリハーサルの際に団員に指示する。
楽譜を読み込む際には、その時代の政治・歴史・文化の背景を理解する必要があり、作曲者の人格・性格・癖・人間関係、さらに他の曲との関係性なども理解した上で、作曲者の人生の中でその曲がどう位置付けられているのか?についても研究する必要がある。
そして、自分が描いた曲の音楽をどのように表現し、聴衆に伝えるか、その戦略・ストーリーも考えねばならない。
つまり、膨大な時間の研究・勉強と創造に時間と労力を費やして演奏会を迎えることとなるのである。
そのように考えると、「指揮者」は、中小企業がある大きなプロジェクトを遂行する時の社長だと理解すると解りやすいかもしれない。
《指揮者の役割り》
①会社のプロジェクト(曲)を企画しストーリーを組み立て、成功に導くために必要な各仕事(パート)の役割りを明確化する。
②どこに力を入れるか?どう顧客にアピールするか?など戦略・ストーリーを立てる。
③それぞれの社員の個性を活かし、その能力・魅力をフルに発揮させながら、全体としての最高のパフォーマンスを実現する。
「コンサートマスター」については、指揮者よりさらにその役割は理解されていないかと思うが、会社で例えれば「役員」としてプロジェクトに関連する各部や社員を纏め、精神的にもリーダーとして引っ張っていく役割りとなろう。
《コンサートマスターの役割り》
コンサートマスターは、いわば指揮者と団員の間に立って中間管理職的な役割を果たすことも大事だが、基本は団員全体のリーダーとしての役割りを果たす。
演奏会までのリハーサルにおいては、テンポ感や強弱、間の取り方などの表現について細部に亘り指揮者に対して確認し、また、常に団員に意識を向けて指揮者の意図が伝わっているかも確認し、必要な指示を与える。
そして、演奏会本番では、誰よりも体を前後左右に動かし、団員にエネルギーを与える。だから他の人より一段高いピアノ椅子に座る。
(単に偉いからではない!)
会社で言う役員としての役割りという意味では以下の通りとなろう。
①意見の取り纏めと調整:パートリーダー(団員)からの意見を纏めて指揮者に具申すると共に、指揮者と意見・方針のすり合わせを行う。
②指示の伝達:指揮者の指示がうまく団員に伝わっていない時は、コンサートマスターが瞬時にパートリーダーや団員全体に、解りやすく指示を出す。
③意識統一:団員は基本的には指揮者の指示に従うものだが、特に意識してタイミングを合わせる必要がある時には、指揮者ではなくコンサートマスターを見て合わせる
④危機管理:演奏中にバラバラになりかけた際には、コンサートマスターが先頭に立って取り纏めに入る。
オーケストラは、ある意味究極の組織活動である。
極めて統率性が高く、常に緊張感と音楽の喜びに満ちている。
その緊張感と喜びを聴衆は感じ取り、感動する。
しかし、その裏には、指揮者やコンサートマスターや団員の、その瞬間瞬間に向けた膨大な時間と労力をかけた努力があるのだ。